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京介がトニーの部屋に遊びに来た。
中学に上がってからは色々忙しいらしく、小学生の時ほど京介はトニーに会いにこない。
トニーはそれを少し寂しく思っていたのだが、久々に会う京介はわかりずらいが甘えてくれる。
それがとても可愛くて仕方ない。
今までの寂しさを忘れさせてあげるというように、トニーの手を拒まない。
だからついつい、頭を撫でたり、頬を撫でたり、バンダナをとって額の傷に触れたり、トニーは京介に触れることが多くなってしまう。
それを京介はかけらも嫌がらないので、だんだんエスカレートしてきていることに、トニー自身が気付いていた。
この間など、雑誌を読んでいる京介をそのまま抱っこして、自分の膝の間においてしまった。
雑誌の下で己を囲う腕を気にすることもなく、京介はそのまま黙々と雑誌に目を通した。
その様子をみて、トニーはわざわざ京介の背を自分の胸と腹にぴったりくっつけるように、額に優しく触れながら、京介の上体がゆっくり後ろに倒れるように促した。
その時は、当然のように、自然にやってしまったのだ。
折角久々に会えたのに、京介がちっとも自分に構ってくれなかったから。
トニーは京介のことが好きだった。
愛しているから、ずっと一緒にいてほしい。
それが叶わないのなら、傍にいる時ぐらい構ってほしい。
その願望に気付いた時、甘えているのは自分なのだとトニーは思った。
京介は触れる自分の手を拒まない。
好きにさせてくれる。
だから。
「京介…これ履いてみてくれないか?」
ソファーに座る京介は、自分の足元に跪いているトニーがおずおずと差し出したものに驚いた。
それはもう、目をひんむいて、口はぽかんと開けたまま。
何故そんなもの持っているのか、何故自分に頼むのか。
京介の頭の中では聞きたい事が渦巻いていたが、それを声に出せるほど余裕がなかった。
「…だめかな、やっぱり…。」
京介の反応を見て、しゅん、とするトニー。
その様子に、京介は慌てて『そんなことないよ。』と言いそうになったが、彼のきゅっと握りしめたものを見ると答えにつまる。
小さくう~…と唸ったあと、京介は落ち着くように深呼吸して、何もつけていない額に手を当てた。
「…それどーしたの。」
「…この間、マミーがレ、レギン、ス?履いてて、それを触らせてもらって…」
トニーの口から、あまり聞きたくない人物の名前が出てきたことに、京介は小さく眉をしかめた。
「…それで?」
「それで、その感触がとても気持ち良くて、ストッキング?とかはもっといい、的なことを言ってたから…」
「…ストッキング、どうしたの?」
「マミーがくれた。忘年会で使った残りがあるからって。」
忘年会、という言葉に、去年の馬鹿騒ぎに巻き込まれたことを思い出した。
自分はファミリーの一員ではないし、静かに冬休みを満喫しようと思っていたところ、夕方に馬場と共に拉致されて、ファミリーの忘年会に参加させられた。
まだ成人にもなってないくせに、ファミリーの奴らは酒を浴びるように飲んでいた。
多分巻き込まれたのであろうボンチューは無理矢理飲まされた挙句に寝てしまっていた。
(それを馬場は『可愛いやっちゃ。』と言いながら抱っこしていた。)
自分はそんなもの無理矢理だろうがなんだろうが飲みたくないと頑なに拒み、トニーの後ろで隠れるようにして、ただ時間が過ぎ去るのを待っていた。
酔った勢いなのか、変な一発芸やものまねユニットが出てきたりして、京介は本当にうんざりしていた。
トニーはそんな京介を気にかけつつも、その忘年会を楽しんでいるようだった。
その時、やっぱりトニーはファミリーの一員なのだろう、と京介は思った。
トニーがこのファミリーの中で過ごした時間。
京介は何も知らない。
ファミリーに向ける顔も、声も、行動も。
京介はだんだん、何だか何も知らない、他人に縋っているような気分になってきて、最後には馬場の背中に移動した。
それに気付いたトニーは、『戻っておいで。』と京介に向かって両手を広げて言った。
京介は一度迷ったが、馬場のシャツの端を掴んで静かに首を振った。
その一連を見て、酔ったマミーが馬鹿笑いをしながら『トニー振られてんじゃーん!!』と喚いて飛びついて、トニーを押し倒した。
その時の恰好が、ぶりぶりの可愛い子ぶった女のものだった。
(…あ れ か…!)
合点がいけば、尚更頷きにくくなった。
(何で俺に頼むんだよ…マミーに頼めばいいじゃねーか…。)
それをしないのは、マミーに変な目で見られたくないからなのだろうな、とか
俺にならどう思われてもいいのだろうな、とか
トニーにとって俺は玩具や道具類、それぐらいの存在なのだろうな、とか。
思うことはたくさんあったけれど、シュンとしたトニーを京介は見ていたくないのだ。
京介は大きなため息をついた。
俯いたトニーの肩がぴく、と震える。
「…貸して。」
「…え?」
思いがけない返事が京介から返ってきたことに、トニーは驚いて顔を上げた。
京介は片手をトニーの方へ差し出していた。
もう片方の手は額に当てて、背もたれに倒れたまま少し赤くなっている。
「履いてあげるから。」
はっきりとした京介の言葉に、トニーはにこりと微笑んだ。
何だか無邪気で幼く見えるその笑顔に、京介は後戻りはできない事を察した。
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するり、履いていた靴下を脱ぐ。
蛍光色のピンクのそれは、今はいている短パンと合うだろうなと思って選んだお気に入りのもの。
自分が好んで身に付けたものを脱げと要求した挙句に、肌触りを知りたいからストッキングを履けだなんて、よく考えたら横暴としかいいようがないが、これは京介自身が誇張して考えているのであって、トニー自身の申し出は至極謙虚であった。
嫌だったのなら、断ればよかった、それだけの話。
引き受けた今、自分は羞恥よりトニーの微笑みを選んだということだ。
だが。
「…あんま見ないで。」
「あっ、ごめん…。」
恥ずかしさのあまりゆっくり短パンをおろしていた京介を、じぃ、とトニーは見つめていた。
そのせいで京介の羞恥は更に高まり、脱ぐ手つきはまごつき、更に遅くなってしまうのを、またずっとトニーが見るものだから、変な悪循環にはまってしまっていた。
思い切って言ってみたが、どうもトニーの視線はチラリチラリと京介の方に向かっているようだった。
(…ほんと、何で俺の脚なんかでいいと思ったんだろう。)
途中ぶっち♡