繰り返されるのは、欺瞞に満ちた言動。
真の胸中など、見せられるはずもない。
京介が帰ってきた。
決まって俺は笑顔で、京介を腕の中に迎え入れる。
京介も黙ってそれに従う。
それはまるで、儀式のようで。
顔を伏せると、丁度鼻先に京介のさらさらとした髪の毛がある。
京介の香りに満たされて、俺はうっとりと目を細めた。
京介の体温と、鼓動と、息遣いがはっきりと分かる距離。
本当に幸せで、このまま溶けあえたら、とさえ思った。
俺はとっくの昔に、リーダーなんかじゃなかったのかもしれない。
自分の中には悪に立ち向かう、明瞭な正義は確かにあったが、
それに羨望と尊敬の眼差しを向ける俺よりも小さな存在があったから、
絶望の底を味わった今でもリーダーなんて続けているのだろう。
心のどこかで恐れているのだ。
『リーダーでない自分は、はたして京介にとって価値のある人間なのだろうか?』
『リーダーでなくても、京介は自分を慕ってくれるのだろうか?』
『一度、あんなに傷つけて、京介の期待を踏みにじったのに?』
『もし、見限られてしまったら?』
結論はいつも、『次は、ないんだ。』
京介の前で、少しの失態も見せることは許されなかった。
自分は、京介の理想のリーダーであらねばならない。
京介を常に、自分に引き付けておかないと気が済まない。
京介が、自分以外の誰かに気をとられることさえ、耐えられなかった。
『京介が離れていくのが、怖い。』
今だって、本当は間違った方法なのだと、いけないことなのだと、頭では分かっている。
京介をこんな風に縛りつけたって、そこに何の意味もない。
京介の気持ちは見えないままだし、自分の気持ちを京介に曝け出すこともできない。
京介に抱いた、淫らで醜いこの感情。
自分の中で、こっそり、静かに、消してしまえればよかったのに。
(…そんなの無理だった…。)
何年、京介を想い続けたんだろう。
何度も自分を誤魔化した、騙した、言い聞かせた。
それでもやっぱりこの気持ちは朽ちてくれずに、しっかりと心に根を張ったまま、
それどころかすくすく育って、もう手に負えない。
京介が俺に笑いかけるたびに、名前を呼ぶたびに、隣に寄り添うたびに。
それを養分にして、気持ちがどんどん大きくなっていくのがわかる。
既に悲鳴に似た、懇願する心の叫びは、俺を卑劣な行動に導いた。
(本当は、自分だけでさっさとグループを潰せるくせに!)
「京介…」
返事はない。
京介は情事中はいつも口を固く結んだまま開かなかった。
乱れているはずの呼吸さえ、枕やシーツで消してしまう。
そして頑なに己の表情を見せることを拒んだ。
向き合って抱けば、ギュッと目を瞑り、口元を両手で押さえるし、
後ろから抱けば、枕に顔を押さえつける。
無条件で、京介の意見を聞き入れない、こんな状態に持っていった後ろめたさがあったからか、
自分から京介に『俺を見てくれ。』なんて言えなかった。
もしかしたら、京介は心と体の負担を軽くしたくて、
脳内で別の誰かを想い浮かべていたのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎると、決まって俺の動きは乱暴になった。
京介には、最高に優しくしてあげたいのに。
心の底から愛でてあげたいのに。
慈愛と残忍な感情が入り混じり、頭の中は靄掛かって、はっきりした意識を保てない。
いいとも、痛いとも言ってはくれない。
名前を呼んでくれることもない。
独りよがりの性行為にすぎないのに、どうして京介を求め続けてしまうのだろう?
「京介…」
縋るように、祈るように京介の耳元で名前を囁き続けると、ゆるり、京介の目が開いた。
途端、ジワリと目元には大粒の涙が浮かぶ。
紅潮した頬にすっと流れて、眉根を悩ましげに寄せた。
キラキラと光る瞳が、今の一瞬、俺を見つめているのかと思うと、
嬉しくて切なくて、胸が張り裂けそうだった。
こんなに京介が愛しい。
「京介…っ」
京介に覆いかぶさった状態で、力の限り、京介を抱きしめた。
京介の脇から自分の腕を通して、京介の背中と頭をぎゅうっと自分に押し付ける。
それでも京介は、俺に腕をまわしてくれることはなかった。
ただ初めて『…っ、ふぅぅ…っ』と詰まった小さな声をあげた。
小さめの、赤く熟れた唇を食べてしまいたかった。
汗に濡れた髪を優しくかきあげながら、俺は京介の頬を撫でた。
このまま俺が達さなければ、京介の中にずっと留まる事ができるのだろうかと
馬鹿げたことを考えながら。
そうして今日も、一日でも長く京介との関係を続けられるように、
子供騙しな『戦略』を立てている。
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つづく…と思う!
今回はトニー独白な感じで書いてみたけど、
トニーの気持ちちっとも書ききれてないよぉおおう!!!涙
もじゃに『お前はまだたけしラバーなのか?』と言われたけど、
もちろんだよ。もう泥沼にはまって抜け出せないぐらいだよ。と答えたい。(^▽^笑)
トニ京好きだぁぁぁっ!!!!!大好きなんだぁぁぁぁっ!!!!
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